初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
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夢を見ていた。
幼いコーデリアと花園を歩いている夢だ。
お人形のような、愛らしいコーデリア。
無口だけど、目にするものすべてに興味があるのか、キラキラと瞳が輝いている。
『ありがとう』
あの日の輝くような笑顔が忘れられない。
こんなはずではなかった。
思い出の中にいたコーデリアを妻に迎えて、ようやく人並みの暮らしができると喜んでいたのに。
工事現場の事故から汚職事件に発展してしまい、休む間もなく働き続ける毎日。
今日こそは帰るぞと意気込みながらも、仕事が終わらない。
「コーデリア……」
今さら名前を呼んでも、答えてくれるだろうか。
君と夫婦になれて嬉しかったんだと言っても、信じてもらえるだろうか。
熱にうなされながら、ずっと妻のことを考えている。
そよそよと風が心地よい。どこからか小鳥のさえずりが聞こえる。
ああ、懐かしい花の香り……。庭に咲くバラか?
うっすらと目を開けてみた。
「ここは?」
ここがどこかわからない。
どうして見知らぬ部屋のベッドに寝ているのだろう。
「気がつかれましたか?」
柔らかいトーンの声が聞こえる。
ベッドのそばにいる女性のようだ。
そちらを見ると、実った小麦のような色の髪を後ろで無造作に束ねた若い女性が立っていた。
化粧はしていないようで、健康そうな肌にチラホラそばかすが浮いている。
近所の農家の娘だろうか?
「ああ」
かすれた声が出たら、その女性がすぐに口元に細い管のようなものを差し出してくれた。
よく見たら、麦わらの茎がコップに差し込んである。
少し冷たい水が飲みやすくて、いくらでも喉に流れていく。
「美味しい……」
「よかった」
微笑む表情が、なぜか懐かしく感じる。
「君は?」
「看護人のリアと申します」
コップを持ったままペコリと頭を下げるが、この辺りの農家の娘というより、どこか品がある仕草だ。
「世話になった」
「いえ、まだ完全にはお熱が下っておりません」