初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
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「ジタバタ暴れるんじゃない」
カルロス様がルーファス様をペチンと叩く。
意識があるのかないのか、どうもルーファス様は大人しく着替えさせてくださらない。
食事の時は素直なのに、どうしてか着替えだけはいやがるのだ。
熱を下げるために汗をいっぱいかく薬草を飲ませているから、じっとりと湿ったシャツは気持ち悪いと思うのだけど。
「潜在意識というやつか……」
「は?」
カルロス様がフフンと鼻をならした。
「どこかでリアに肌を見せたくないと思っているんだろう」
よくわからないことをおっしゃる。
「でも看護する立場から言わせていただければ、着替えさせたいのですが」
「そうだな。ちなみに、ほかの者にさせてみよう」
私はほかの仕事に行き、庭師のロンと通いのベラさんに着替えを頼んだ。
あとから確認したら、ルーファス様は汗を拭くのも嫌がらず、ちゃんと着替えたそうだ。
「まだまだ細っこいねえ。あれじゃあ熱も下がらないだろうよ」
エラさんは汗で湿ったシャツやシーツをゴシゴシと洗ってくれたけど、私が着替えさせられないのにベラさんならできるなんて納得がいかない。なんだか嫌われているみたいだ。
いや、もともとロールザイト家にいたころから嫌われていたことを思い出す。
コーデリアじゃなくても、私ってルーファス様から嫌われる運命なんだろうか。
ただカルロス様だけがうんうんと満足そうにうなずいていた。
「こいつが元気になれば、すべて丸くおさまるさ」
どういう意味なのだろう。
よくわからないが、薬草を煎じて、食事の支度をして、ああ今日も私は忙しい。