初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合


結婚式の当日。
私は公爵家の侍女たちに『日焼けを隠します』と、皮膚呼吸できないくらいこってりと白粉が塗られた。
準備されたウエディングドレスはヒラヒラしたフリルだらけで、悪趣味なものだった。
厚化粧の私が着たら、道化か雪だるまかといったところだっただろう。
ちっとも似合っていなかったから、父でさえ口をへの字に曲げていたくらいだ。

『なんてみっともない』
『辺境伯のご令嬢って、趣味が悪いのね』

王都に知り合いや友人のいない私に、結婚式に列席していた人たちは遠慮なく陰口をたたいていたっけ。
でも使用人たちに混ざって暮らしてきた私は平気だった。
これまで『辺境伯家のお荷物』とけなされたことはあっても、ほめられたことはなかったもの。
どんなに笑われても、結婚式の間だけ我慢していればすむことだ。

式は進み、ベールをあげて花嫁にキスをするシーン。
ルーファス様は厚化粧の私に驚いたのかもしれない。
べっとりと赤く塗られた唇を避けて、頬に軽くキスをしてくださった。

『まあ』

また誰かの呆れた声が聞こえたけれど、私は平気。
あの日の私は、ルーファス様の妻になれるなら悪口なんて些細なことだと思っていた。






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