初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
「なんだか、ホッとするな」
「はい?」
「王宮に泊まり込んで仕事していたなんて、ここの暮らしに馴染んだらうそのようだ」
そう言いながらルーファス様が微笑んだ。
私の大好きな表情を目の前にして、私はカチンカチンに固まって身動きがとれない。
「君といると、幼いころに会った少女のことを思い出すんだ」
思い出をたどりながら、ルーファス様がポツポツと話してくださる。
王宮で迷子になっていた子との出会い、バラ園を歩いたこと。
それを聞いて私は焦った。まさに、コーデリアのことではないか。
「その子を妻にできるって、ものすごくうれしかったんだけどね」
ルーファス様の瞳が陰った。
もしかしたらルーファス様は、私のことを望んでくださっていたんだろうか。
王命とはいえ結婚できるって、喜んでくださっていたのだろうか。
だけど今、私はカルロス様の介護人、リアだ。
ルーファス様に、コーデリアへの気持ちを確かめることはできない。
複雑な想いで隣にいるルーファス様へ顔を向けたら、真剣な目で私を見つめていらっしゃる。
胸の奥がギュッとつかまれたように痛い。
打ち明けるなら今ではないかと思ったとき、屋敷のほうから大きな声が聞こえてきた。
「ルーファス様~、お客様です~」
ロンが呼んでいるから、ルーファス様が立ち上がった。
私はホッとしながらも、これで真実を打ち明ける機会は二度とこない気がしていた。