初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合


「なんだか、ホッとするな」

「はい?」

「王宮に泊まり込んで仕事していたなんて、ここの暮らしに馴染んだらうそのようだ」

そう言いながらルーファス様が微笑んだ。
私の大好きな表情を目の前にして、私はカチンカチンに固まって身動きがとれない。

「君といると、幼いころに会った少女のことを思い出すんだ」

思い出をたどりながら、ルーファス様がポツポツと話してくださる。

王宮で迷子になっていた子との出会い、バラ園を歩いたこと。
それを聞いて私は焦った。まさに、コーデリアのことではないか。

「その子を妻にできるって、ものすごくうれしかったんだけどね」

ルーファス様の瞳が陰った。
もしかしたらルーファス様は、私のことを望んでくださっていたんだろうか。
王命とはいえ結婚できるって、喜んでくださっていたのだろうか。

だけど今、私はカルロス様の介護人、リアだ。
ルーファス様に、コーデリアへの気持ちを確かめることはできない。

複雑な想いで隣にいるルーファス様へ顔を向けたら、真剣な目で私を見つめていらっしゃる。

胸の奥がギュッとつかまれたように痛い。

打ち明けるなら今ではないかと思ったとき、屋敷のほうから大きな声が聞こえてきた。

「ルーファス様~、お客様です~」

ロンが呼んでいるから、ルーファス様が立ち上がった。
私はホッとしながらも、これで真実を打ち明ける機会は二度とこない気がしていた。


< 50 / 58 >

この作品をシェア

pagetop