初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
お客様というのは、王宮の第二王子からの親書を持ってきたらしい。
応接間に通されていたのは、王子の側近のひとりでルーファス様の同僚だった。
その目つきから、少しばかり田舎の屋敷をバカにしている様子が見てとれた。
「お待たせしました」
ルーファス様が応接室に入り、私も後ろに続いた。応対していたサリーはホッとした顔になる。
身分が高いお客様なんてお迎えすることはなかったから、お茶ひとつにも気を遣ったはずだ。
「元気そうじゃないか!」
「トーマス。どうしたんだ、こんなところまで」
こんなところという意味は、トーマスという人と、ルーファス様では違ったようだ。
ルーファス様は領地の別荘まで王子の側近がわざわざ来たことに対しての言葉だが、トーマスという人には通じない。
田舎の鄙びた屋敷のことだと思ったようだ。
「ルーファスともあろ者が、こんな狭い場所で養生していたのか」
ぐるりと部屋を見回して、サリーや私に見下した表情を見せる。
「トーマス、この者たちのおかげで命拾いしたんだ。そんな言い方はやめてくれ」
ルーファス様は少しムッとした顔をしている。
「悪い悪い、つい」
ソファーに腰かけて、ゆったりと足を組んでいる。
少しも悪いと思っていない動作だが、これ以上はケンカになってしまいそうだ。
「お茶のお代わりを淹れてまいります」
そう言って、私はサリーを連れてその場を離れた。