初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
ルーファス様が嬉しいことをおっしゃったけど、トーマス様のひと言で台無しになった。
「ルーファス、君って奥方とうまくいってないからって、こんな田舎娘に手を出したのか?」
トーマス様にお茶をぶっかけてやろうかと思ったが、ルーファス様の方が早かった。
「黙れ!」
「ルーファス? 本気なのか?」
「彼女は私の命の恩人なんだ。無礼にも程がある」
ルーファス様の怒りは本物だった。ブルブルと肩のあたりが震えている。
私のことでそんなに怒ってくださるなんて、なんだか感動してしまった。
「ほんとうに無礼な男だな。それで王宮勤めができるのか?」
いきなり応接室のドアが開いて、重々しい声が響いた。
「カルロス前公爵閣下!」
さすがにトーマス様もカルロス様の前では震えあがっている。
「わが孫の妻に、たいそうな無礼じゃないか。田舎娘だって? 辺境伯家もバカにしているようだな」
カルロス様の言葉に、私は息をのんだ。
(私のこと知っていた? いつから気がついていたの?)
トーマス様のことはどうでもいいが、ルーファス様を見るのが怖い。
「まだ孫は病みあがりだから、お引き取り願おう。第二王子にも適当に言っておけ」
「は、はい!」
カルロス様のひと言で、トーマス様は応接室から飛び出していった。