初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合


ルーファス様が嬉しいことをおっしゃったけど、トーマス様のひと言で台無しになった。

「ルーファス、君って奥方とうまくいってないからって、こんな田舎娘に手を出したのか?」

トーマス様にお茶をぶっかけてやろうかと思ったが、ルーファス様の方が早かった。

「黙れ!」

「ルーファス? 本気なのか?」
「彼女は私の命の恩人なんだ。無礼にも程がある」

ルーファス様の怒りは本物だった。ブルブルと肩のあたりが震えている。
私のことでそんなに怒ってくださるなんて、なんだか感動してしまった。

「ほんとうに無礼な男だな。それで王宮勤めができるのか?」

いきなり応接室のドアが開いて、重々しい声が響いた。

「カルロス前公爵閣下!」

さすがにトーマス様もカルロス様の前では震えあがっている。

「わが孫の妻に、たいそうな無礼じゃないか。田舎娘だって? 辺境伯家もバカにしているようだな」

カルロス様の言葉に、私は息をのんだ。

(私のこと知っていた? いつから気がついていたの?)

トーマス様のことはどうでもいいが、ルーファス様を見るのが怖い。

「まだ孫は病みあがりだから、お引き取り願おう。第二王子にも適当に言っておけ」
「は、はい!」

カルロス様のひと言で、トーマス様は応接室から飛び出していった。











< 53 / 58 >

この作品をシェア

pagetop