初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合




でも自分が田舎娘だという事実を思い出したら、怖くなってきた。
ふだん使用人の子としか関わったことがない私は、貴族の少年に対してどう振舞うのが正解なのかわからない。

「ここにいたらきっとご両親が見つけてくれるから」

オドオドしていたら、私が両親と離れて不安になっていると勘違いしたのか慰めてくれる。
なんて優しい人なんだろうと感動していたら、王宮の使用人が子どもだけでウロウロしているのに気がついたらしく声をかけてくれた。

「ロールザイト様、いかがなさいましたか?」
「この子が迷子のようなんだ。どこのご令嬢か調べてもらえる?」

王宮でも物おじせず話しているのだから、かなり上位貴族のご令息なんだろう。

「私、だ、大丈夫です」

私は慌てて断った。辺境伯家のみんなに王都に来ていることがバレるのはまずい。
侍女が待っているからと、控室の場所を聞いて一目散に走り出してしまった。
貴族の令嬢としては落第点だけど、それどころではない。

少年はなにか呼びかけてくれていたけど、私の耳には届かなかった。



***



私は侍女とふたり、その日のうちに王都を離れた。
辺境伯領に帰ってから、こっそり屋敷の図書室で『ロールザイト家』を調べてみた。
貴族年鑑には、代々宰相や財務大臣を務めるような名門で、過去には王女様が降嫁されたと書かれている。
そして絵本から抜け出してきたような王子様のお名前は、ルーファス・ロールザイト様。ロールザイト公爵家のご長男だった。

あの日の優しいルーファス様に、私は淡い想いを抱いた。初恋だったのかもしれない。

私にとってルーファスは様と過ごしたひとときが、人生で一番幸せだった。
初恋は実らないというけれど、私の場合は実る前に朽ち果てたんだ。




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