夢より素敵な時間を、初恋のきみと。

こうしてサインを頼まれることも増えた。

嬉しい半面、複雑な気持ちもある。

人って単純だなって、つくづく思う。

渡されたペンでサインをしようとしたその時。

「――月島さん」

名前を呼ばれて振り返ると、如月さんと取り巻きの子達がいて。

「皇月先輩が呼んでたよ。裏玄関に来てほしいって」

如月さんが言った。

皇月先輩がわたしを呼んでる?

このあとのダンスのことかな。

「わかった。ありがとう」

如月さんにお礼を言って、わたしは宴会場を出て裏玄関へ向かった。

「……あれ?」

言われた通り裏玄関へ向かうと、そこには誰もいなかった。

冬の冷たい風が頬に当たる。

もしかして、如月さん達の嫌がらせ?

嫌な予感がして、戻ろうと思って踵を返した時、

「こんな古典的なウソに引っ掛かるなんて、ホントバカだよね」

「え?」

聞こえて来た言葉に顔を上げると、目の前に冷たく笑う如月さん達がいた。
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