夢より素敵な時間を、初恋のきみと。

だから、もう辞めてしまいたい。

そう思ったその時だった。

「僕なんかって言ったらダメだよ!」

女の子が、突然強い口調で言った。

「みゆのおばあちゃんがいつも言ってるよ! やる前からできないって言ってあきらめるなって。自分にもできるって思ってやりなさいって。だからあきらめちゃダメだよ!」

一気にそう捲し立てると、今度は女の子の方が泣きそうな顔になった。

そして、「これ、使っていいから」とポケットからハンカチを差し出した。

「……ありがと」

戸惑いながらもハンカチを受け取った、その時。

「みゆちゃ~ん」

どこからか、女の子 (“みゆ”という名前なんだろう) を呼ぶ女の人らしき声が聞こえて。

「あ、おばあちゃんが呼んでるからもう行かなきゃ!」

女の子は、そう言うと走って行ってしまった。

なんだったんだろう、今のは。

突然現れて、お説教して、ハンカチを渡して去って行くなんて。

でも、泣いている見ず知らずの他人に声をかけて一生懸命励まそうとしてくれたんだよな。
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