夢より素敵な時間を、初恋のきみと。

そう思ったら、絶望に沈んでいた気持ちがふっと軽くなって思わず小さく笑みが零れた。

たった数分の出来事だったけど、俺にとっては忘れられない大切な思い出。

「七星くん、メイク入るわよ」

思い出に浸っていたら、楽屋のドアをノックする音が聞こえてマネージャーの美雲さんに声をかけられた。

バッグの中からお守り代わりのハンカチを取り出してポケットに入れると、メイクルームへ向かう。

「今日は美夢ちゃんいないけど、次の撮影日にはまた来てもらう予定だから」

意味ありげに笑う美雲さんは、恐らくクリスマスのダンスパーティーのことを知っているんだろう。

「やっと会えた初恋のお姫様、大切にしてあげてね」

「……はい」

凛のヤツ、美雲さんにもあのこと話したな。

「七星くん入りま~す」

メイクを終えスタジオに入る前、深呼吸をしてあの言葉を思い出す。

“僕なんかって言ったらダメだよ”

美夢は覚えてないかもしれないけど、あの時からずっと俺はこの言葉に支えられてきた。

だからこうして今日も自信を持ってカメラの前に立てるんだ。

今度会えた時にはきちんと伝えるから。

< 95 / 156 >

この作品をシェア

pagetop