だって、そう決めたのは私
「大丈夫? 何かあった?」

 宏海が心配そうに覗き込む。こんなことをしたのは初めてだ。彼もどうしたらよいのか分からないのだろう。目に見えて、あたふたし始める。でもそれが、どうにも愛しかった。

「今日の帰りにね。何気なく開いたウェブサイトのページにさ、見つけちゃったんだ」
「見つけちゃった? 何を」
「あぁ……元夫をね」
「えっ、元夫? え? えぇと」

 宏海が慌てるのも仕方ない。私に婚姻歴があることを、彼は今の今まで知らなかったのだから。

 こんな生活を始めて三年。口にしたことすらなかった。あぁ、どうして言っちゃったんだろうな。そう思うけれど、今夜は誰かに聞いて欲しかった。

「私ね……バツイチなの。離婚して二十年。もう独身生活の方が長いんだけどね。だから、特別に誰かに言うつもりもなかったし、言わなくても生きてこられた。結婚をするつもりがないって言ってたのは、こりごりだからなの。幸せだと思ってたのに、浮気されたのよ? もういいやって思うじゃない」
「そう……だったんだ」

 きっと誰にも言わなかったのは、可哀想な女だと思われたくなかったからだ。当然それ以外の感情もあるけれど、その気持ちが最も強かったのだと今思い知る。そんな目で見ないで。哀れみを向けないで。自分で言い出したくせに、そっと彼と距離を取った。
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