だって、そう決めたのは私
「匡は何て言ってるの」
「いや、それがね。恋だとかじゃないって言うんだ。でも、千夏の見解では、叔父さんは恋してるねって。僕にもそう見えたの」
「千夏がそう言うなら、そうなのかもね。あの子はそういうことに敏感だもの」

 千夏は、匡の姪である。次兄の長女。大学生になったか。父親によく似た目元がチャームポイントで、クリクリと可愛らしい娘だ。

「やっぱりそうなんだぁ」

 ウンウンと頷いて嬉しそうに笑ったくせに、宏海は合間にフッと寂しい顔を覗かせる。あぁきっと、彼は今苦しいのだ。決して日の目を浴びないだろう己の感情と、グルグルと格闘しているに違いない。

 彼の思いに気付いたのはいつだったか。宏海は、匡のことが好きだった。いつも会う匡の実家――ジャズ喫茶、羽根で見かける彼は、いつだって匡を目で追っていた。その初恋のような感情を、今も同じように持っているとは思いもしなかった。数十年ぶりに再会し、酒を飲んでる自分たちに笑いながら、匡の話に見せたちょっとだけ苦しい顔。もしかして……まだ。直感でそう感じたのだ。

 宏海は今、どんな気持ちで話しているのか。私にどんな言葉を求めているのか。バレないよう薄く薄く息を吐き続け、胸のモヤを吐き出そうとしている。
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