だって、そう決めたのは私
「うん。そうだよね。だから、カナコが反対するならしないつもり」
「やだ。そんな責任重大なこと冗談でも言わないでよ」
「言うわよ。こうやって素直に自分の気持ちを吐露できる相手って、貴重なのよ?」
「いや、そうかもしれないけど。結婚も良いわよって勧める程、私に良い思い出はないもの。五十嵐くんが駄目とかじゃなくて、普通にナシとしか言えないよ」
「《《結婚》》はそうだったかも知れないけど、宏海くんとの生活は悪くないでしょう?」

 暁子にしては珍しく、茶化している素振りはない。けれど私には、今一番触れて欲しくないことだった。

 暁子は五十嵐くんに惹かれたのか分からないが、彼に思われることに嫌悪感は感じていない。その暁子のほんのり温かな気持ちと五十嵐くんの真っ直ぐな思い。私には、それが眩しくて仕方なかった。自分の中にあった、ずっと認められなかった気持ち。ようやくそれを認め日に、彼の思いを改めて知った私としては、彼女たちとの感情の差がただ苦しかった。けれど、ほんの少し良かったと思っていることもある。それは一瞬だったけれど、私もまだ誰かを好きになることが出来る、と知れたことだ。

「ねぇ、カナコ。宏海くんのこと、本当はどう思ってるの」
「え、あぁ……好きだよ」

 素直に言った。情けない、小さな声ではあったけれど、暁子から目を逸らさなかった。彼女が素直に話をしてくれるならば、私もどこかで素直に吐き出そうと思ったのだ。私にしては上出来だ。今日もどうせ誤魔化すとでも思っていたのだろう。暁子はひどく驚いて、くるくる回していたボールペンを落とす。軽いカシャンという音が二人の間に響いた。
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