だって、そう決めたのは私
「あのね。普通の夫婦が傍にいてくれた方が、良いこともあるのよ。それにカナコは演技下手だし。宏海くんと普通に一緒にいてくれれば、聞きやすくなる話もあるの」
「いや、そうかも知れないけど」
「それにカナコだって、宏海くんと観光みたいなことしたことないでしょう?」
「それはまぁ……そうですね」
「なら、カナコだってデートだって思えばいいのよ。その宏海くんの相手がどんな人かは知らないけれど、今の時点で《《彼の妻》》はカナコなんだから。楽しんだって、いいはずよ?」
「楽しむ、か」
何も言い返せなくなった。確かに、宏海とはほぼ外で会うような機会はない。外食だって数えるほどだし、匡の実家の喫茶店もあまり一緒には行かない。この間飲みすぎて迎えに来てもらった時なんか、だいぶレアな経験である。そもそも私たちは、そういう思い出を作ってもいいのだろうか。
「……分かった。宏海に聞いてみる」
「やった。そうこなくっちゃ」
「でも、宏海には全て話すからね?」
「うんうん。いいよ。お願いします」
「分かった。じゃあ宏海と話して、それから五十嵐くんを誘おう」
うん、と大きく頷いた暁子。まるで子供のように嬉しそうだった。茉莉花を産んで二十年。母として生きてきた彼女が、その殻の中の本当の自分にようやく目を向けられたように見えた。それが、私も嬉しかった。宏海に何とか一緒に行ってもらえるように誘ってみよう。彼にとって気分転換になるかは分からないけれど。一度くらい楽しい思い出も欲しい、なんて打算的な思いが、私の中に見え隠れしていた。
「いや、そうかも知れないけど」
「それにカナコだって、宏海くんと観光みたいなことしたことないでしょう?」
「それはまぁ……そうですね」
「なら、カナコだってデートだって思えばいいのよ。その宏海くんの相手がどんな人かは知らないけれど、今の時点で《《彼の妻》》はカナコなんだから。楽しんだって、いいはずよ?」
「楽しむ、か」
何も言い返せなくなった。確かに、宏海とはほぼ外で会うような機会はない。外食だって数えるほどだし、匡の実家の喫茶店もあまり一緒には行かない。この間飲みすぎて迎えに来てもらった時なんか、だいぶレアな経験である。そもそも私たちは、そういう思い出を作ってもいいのだろうか。
「……分かった。宏海に聞いてみる」
「やった。そうこなくっちゃ」
「でも、宏海には全て話すからね?」
「うんうん。いいよ。お願いします」
「分かった。じゃあ宏海と話して、それから五十嵐くんを誘おう」
うん、と大きく頷いた暁子。まるで子供のように嬉しそうだった。茉莉花を産んで二十年。母として生きてきた彼女が、その殻の中の本当の自分にようやく目を向けられたように見えた。それが、私も嬉しかった。宏海に何とか一緒に行ってもらえるように誘ってみよう。彼にとって気分転換になるかは分からないけれど。一度くらい楽しい思い出も欲しい、なんて打算的な思いが、私の中に見え隠れしていた。