だって、そう決めたのは私
「仲良くってどんな?」
「いや、えぇと……実は、五十嵐くんにこの間言われたの。私たちのことが憧れだって」
「憧れ?」
「そう。奥さんのために綺麗なお弁当作る旦那さん。それを幸せそうな顔をして食べる私。何と言いますか……あ、愛し合ってるんだなぁ、と思っているようでして」
「あ、愛し合ってる……ですか」
「……はい」

 口にするだけで、どんどん恥ずかしくなる。一方向からしか私たちを知らない人間にそう思われている、という事実が、まるで私の気持ちがそこに表れているようだったからだ。

「えっと、仲良く、したらいいのかな」
「そうですね」
「それって、どういう……ことなんだろう。手でも、繋ぐ?」
「手、ですか」

 ギクシャクした、可笑しな会話が繰り広げられる。今更、手を繋ぐくらいなんだ。そう意気込んでもみるが、いざ出来るかと問われると不安になる。モジモジ下を向いてしまって、かえって恥ずかしくもなった。どうしたらいいのだろう。

 すると、箸を止めたままの私の手の上に、宏海がそっと自分の手を置いた。驚いて顔を上げると、ちょっと照れるね、と笑う宏海と目が合う。心臓がドキンと跳ねた。それから、彼は優しく包み込むように私の手を握る。でも、気付いてしまった。顔を赤らめるでもない、いつもの穏やかな顔をしている彼。あぁこんなことにドキドキするのは私だけなんだ、と。だから、スッとそこから自分の手を抜いた。
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