だって、そう決めたのは私
「あの、カナコさん。ちょ、ちょっとだけいいですか」
「あっ。ん、どうした」

 申し訳なさそうに声をかけてきた五十嵐くんに、平然を装う。暁子は、一緒にいない。少し離れたところで、楽しげに土産物のクッキーを見ている。彼女の機嫌を損ねたわけではなさそうだ。

「宏海さん、すみません」
「いえいえ。じゃあ、僕はあの辺り見てくるね」
「うん」

 頑張ってね、と手を振った宏海に、五十嵐くんは深々と頭を下げる。どこまでも律儀な男だ。さてと、何があったのか。五十嵐くんは、何だか強張った顔をしているように見えた。
 
「で、どうした」
「いや、どうもしないんですけど……今日、どこまで踏み込んだらいいかなって。今のうちに相談をしておきたくて」
「あぁ、なるほど。それならば良かった。どこまでって私が意見することでもないと思うけれどね。五十嵐くんが感じるままにぶつかったらいいんじゃないかな。暁子なら、きちんと向き合ってくれると思うよ」
「はい。それはそうだと思うんですけど……また気持ちを伝えたら、ウザがられませんかね」

 うぅん、と顎を揉む。私が今見ている印象としては、悪くないと思う。マスコットみたいで安心する、と言っていたしな。会うたびに好きだと伝えるのは、ウザがられるのかも知れない。そういう手法を取る人もあろうが、五十嵐くんはそんな器用なことは出来ないだろうと思った。
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