だって、そう決めたのは私
 普通なら、苛ついたり、呆れたりするのかも知れない。でも僕には、そういった反応を示す事ができなかった。急にどうしたんだろうという驚きが大きすぎたのだ。ふざけているのか。そう思いもしたが、暁子さんは本気で聞いている事は分かった。土産の饅頭とクッキーを両手にし、さもそれを僕に選ばせているかのようにしながらも、笑う口元に対して目だけは真剣だったから。誰にも知られまいとした感情を、吐露して良いものか。もしかしたら、カナちゃんとの関係が変わるかも知れない。あの時の僕の頭の中は、そんなことがグルグルと回っていた。

「あの二人、どうなるだろうねぇ。上手くいって欲しいよね」
「そうだねぇ。暁子が嫌じゃなければ、結婚とかはしなくてもいいけれど、寄り添ってくれる人が出来るのは歓迎する。だって暁子って、変なところ真面目というか。肩の力を抜ききれないというか。今後が心配ではあったからね」
「それはカナちゃんだって一緒じゃない」
「そうかも知れないけど……」

 むぅっと膨れるカナちゃんは、普段よりも着飾ってない気がした。いつも僕といると、彼女は『お姉さん』でいようとする。もう染み付いているものなんだろうけれど、それが少し僕には寂しい。だってそれでは、いつまでも僕は『弟』のままだから。いつかは打破したいと思いつつも、関係の悪化を恐れて今に至る。僅かでも良いから、関係が変われば……そう思っていたからこそ、暁子さんに問われた時に素直に吐露したのだと思う。好きですよ、と。
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