だって、そう決めたのは私
「カナちゃん。ねぇ、それってまぁくんは知ってる?」
「え? (まさし)? いや、知らないよ。誰にも言ってないもん。大学を卒業して岩手に行って、そこで結婚をしたの。結果、離婚して出戻ったけどさ。皆、岩手で獣医修行をして、東京に戻ってきたって思ってるんじゃないかな。式もしなかったから、特に誰にも知らせなかったし」
「そっか。じゃあ、まぁくんにも言わない方がいいね」
「あぁ……うん、そうね。そうしてくれると助かる」

 何故か、宏海は嬉しそうだった。首を傾げるが、まぁいいか、とすぐにナッツを口に放る。それに釣られたのか、同じようにナッツを口にした宏海は、やっぱりニマニマしていて。何も面白いことなかったよなぁ、と顎を揉もうとしてふと気付いた。憎悪に塗れていた心が、いつの間にか緩んでいる。宏海を見て、微笑んでさえいた。無意識のうちに。
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