だって、そう決めたのは私
「ササキさん、急用で帰っちゃったんですよ……」
「ほぉ、なるほど」
「今日はもう少し仲良くなりたかったのに」

 さっきまでの勢いはどこへやら。可愛らしい女の子の裸の感情が吐露される。攻め落としたかったのではない。単純に、もう少しだけ仲良くなりたかったのだ、と。こういう素直なところを全面に出したら良いのに。なんて思うのは、おばさんになったからだろうな。
 関根さんのことを良く思わない人が結構いる。こういう線引が上手くないのも一因だろうか。今日は参加していないが、開発部署の中ではすこぶる評判が悪い。私たちのような年上の人間や、男性社員なんかには見せない様があるらしいのだ。まぁそういう子もいるよな。仕事さえ滞りなくやってくれていれば、私は問題ない。同年代の同性社員とも仲良くしてくれれば、なおさら良いけれど。

「あ、え? 帰っちゃった? 来るの遅かったか。百合、ごめん」
「いやいや。イケウチさんはいらっしゃるし。ササキさんだけね、お仕事の都合で先に出られたのよ」
「そうなんだ。お忙しいお仕事なのね」

 他人事のように言ったが、宏海が世話になっている相手である。打ち合わせが急遽入ったとかそんなところだろう。彼らの通常の仕事を全く知らないわけでもないが、かと言って熟知しているわけでもない。薄っすらそう思う程度である。妻として(・・・・)は、情けない限りである。届いたビールを二口だけ飲み、百合と席を立つ。関根さんは項垂れているから、そのままそっと放置した。
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