だって、そう決めたのは私
「ご歓談中、失礼します。開発の担当者が来ましたので、ご挨拶に」
百合がちゃんと大人のやり取りをしている。それが当たり前の年齢になったのだが、二人でいると、いつでも懐かしい時代が抜けない。でも体は年相応だし、いつの間にか健康の話をするようにもなった。制服の裾をピラピラさせて、暑いと項垂れていた頃には、流石に戻れない。
「お世話になっております。商品開発部の中野と申します」
「カメオカの池内と申します。よろしくお願いします」
こうして私だって、当然のごとく名刺交換をする。池内さんは、爽やかなスポーツマンタイプ。そのキラキラした目が、私の手元を見ている。あぁ宏海が作った名刺入れだからか。
「それは中川さんのものですよね」
「えぇそうです。主人もいつもお世話になって、有難うございます」
「いえいえ。新卒の頃からお世話になっておりまして、私の方が甘えてしまっているくらいです。本当に優しいですしね。今は若いのも交えて担当をさせてもらってますが、そちらの方も暖かく見守ってくださっていて。本当に感謝してるんです」
「そうでしたか」
「ええ。今日は急用で仕事に戻ってしまったんですが、ササキという者もご主人の担当を一緒にさせていただいています」
宏海からは、籍入れていないと話してあると聞いている。その事前情報だけで、だいぶ楽になった。こういう場で関係を隠すのは、そう容易ではないのだ。
「お会い出来なくて、残念でした。よろしくお伝えください」
「はい。あ、でもきっと、旦那さんのアトリエで会えますよ。それにこの仕事で、まだそちらの会社にも伺いますし」
「あぁ、そうですね。では、その時改めてご挨拶させていただきますね」
そう言ってみたものの、私はそのアトリエに行ったことがない。宏海がそこに行っている時は、私は仕事をしている。彼がそうスケジュールを組んでいるのだ。初めにした約束。夕食はできるだけ一緒に食べよう。それを、それだけを守るために。
そのアトリエは、私の実家の近くにあるらしい。おおよその場所は聞いているが、行こうと思ったことがなかった。行ってみたい、と言ってみようかな。宏海は、どう思うだろう。アトリエはいわば彼の城。そのテリトリーには、私を入れたくないだろうか。そういう気持ちがあったって当然だ。私にだって、不可侵領域があるのだから。
百合がちゃんと大人のやり取りをしている。それが当たり前の年齢になったのだが、二人でいると、いつでも懐かしい時代が抜けない。でも体は年相応だし、いつの間にか健康の話をするようにもなった。制服の裾をピラピラさせて、暑いと項垂れていた頃には、流石に戻れない。
「お世話になっております。商品開発部の中野と申します」
「カメオカの池内と申します。よろしくお願いします」
こうして私だって、当然のごとく名刺交換をする。池内さんは、爽やかなスポーツマンタイプ。そのキラキラした目が、私の手元を見ている。あぁ宏海が作った名刺入れだからか。
「それは中川さんのものですよね」
「えぇそうです。主人もいつもお世話になって、有難うございます」
「いえいえ。新卒の頃からお世話になっておりまして、私の方が甘えてしまっているくらいです。本当に優しいですしね。今は若いのも交えて担当をさせてもらってますが、そちらの方も暖かく見守ってくださっていて。本当に感謝してるんです」
「そうでしたか」
「ええ。今日は急用で仕事に戻ってしまったんですが、ササキという者もご主人の担当を一緒にさせていただいています」
宏海からは、籍入れていないと話してあると聞いている。その事前情報だけで、だいぶ楽になった。こういう場で関係を隠すのは、そう容易ではないのだ。
「お会い出来なくて、残念でした。よろしくお伝えください」
「はい。あ、でもきっと、旦那さんのアトリエで会えますよ。それにこの仕事で、まだそちらの会社にも伺いますし」
「あぁ、そうですね。では、その時改めてご挨拶させていただきますね」
そう言ってみたものの、私はそのアトリエに行ったことがない。宏海がそこに行っている時は、私は仕事をしている。彼がそうスケジュールを組んでいるのだ。初めにした約束。夕食はできるだけ一緒に食べよう。それを、それだけを守るために。
そのアトリエは、私の実家の近くにあるらしい。おおよその場所は聞いているが、行こうと思ったことがなかった。行ってみたい、と言ってみようかな。宏海は、どう思うだろう。アトリエはいわば彼の城。そのテリトリーには、私を入れたくないだろうか。そういう気持ちがあったって当然だ。私にだって、不可侵領域があるのだから。