だって、そう決めたのは私
「宏海くん……その、仕事はどうなんだい?」
「仕事、ですか?」

 急に義父に問われた。

 この夫婦も、ご多分に漏れず典型的な『寡黙な父とよく喋る母』である。いつもここに座っているが、あまり彼から話しかけられたことはない。義母が会話を回し、そこに頷いたり、多少意見をしたりする程度。それが常だった。だから実は、今ピリリと緊張している。

「やだ、お父さん。そんな言い方。ごめんなさいねぇ」
「あ、いえいえ。心配ですよね。稼ぎはどうなんだって」
「いや、そこまでは言ってないさ。結婚する時に、色々教えてくれただろう。だから、そういう心配じゃない。俺は会社勤めしか知らない人間だからな。君のような職業が安定しているのかとか、知らんのだよ」
「ご心配おかけしてすみません。売上自体はいろいろなことで左右されますが、収入はだいたい安定しています。支出はきちんと折半してますから、そこは安心してください」

 要らぬ、と言われるだろうが、金の管理はきちんとしていることだけは伝えておきたかった。売上が幾らなんてことは、きっと望んでいない。純粋に娘が心配なだけなのだ。義母は申し訳なそうにこちらを見たが、僕にだって義父の気持ちは理解できる。だからネチネチと言われるよりも、こうしてまっすぐに問われた方がずっといいのだ。

「すまんな。つい」
「いえ。娘さんが傷付いたりするのを好む親はいないでしょうから。その点は理解しているつもりです。僕のような自由に見える仕事をしていると尚更。こうして真っ直ぐに問うてくれて、有り難いです」

 出る限りの優しい表情を作った。長くするような話題ではない。茶を啜りながら、どうしたものかと気不味さを携えていると、義母がタブレットを差し出す。僕のウェブストアを表示した彼女は、この鞄ね、と話題を変えてくれた。気付けば義父も身を乗り出し、三人でタブレットを覗き込んだ。義母はきっと、こういう物を作っているのだと示してくれているのだろう。お父さんもこういう鞄がお洒落じゃない? なんて問う。小さな肩掛けの鞄。意外と義父も興味を示し、義母が勧める。その光景がとても微笑ましかった。

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