だって、そう決めたのは私
「何が憧れのインフルエンサーの私生活だよ。よくも堂々としていられるもんだな。過去が後ろ暗くても、今の幸せだけ見せるんだし、バレなきゃいいっていうのか?」
「多分そうじゃないの? まぁこっちも、もう二十年経ってるし、今更文句を言うつもりもなけど。ただすっかり忘れてた顔が、仕事帰りに急に出てきて苛つきはするよね。もうあの男とは終わったことだし、勝手に幸せになりゃいいけど。ただ二度と見たくない顔だったのに」

 何とか気持ちを押し込めて生きてきた二十年。あの時だって、言ってやりたいことは沢山あったが、三十になってもカナコはまだまだ何も知らない小娘だった。世の中には、汚いことを平気でする人間が存在する。自分が幸せになるためならば、何でも出来るような。カナコは、それをまざまざと思い知らされた。当然カナコにそんな人たちと対峙する力もなく、両親は一緒に戦ってくれたが、何もかもあいつらに及ばなかった。この女に、全てを奪われたのだ。

 だから今も、あの時の苦しみを忘れてはいない。あの時、あの女がニィっと影で笑ったのも忘れない。口角を片方釣り上げた真っ赤な唇。その全てをカナコは覚えている。だから、夫に未練などなくても、この記事は面白いものではなかった。大きな口で焼き鳥に齧りついて、手元のジョキを勢いよく煽る。心はむしゃくしゃしたままだ。
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