だって、そう決めたのは私
「カナコさん、いたぁ。お話中、すみません。ちょっとイレギュラーが発生してしまって」
「え? あ、ホント? ごめん、電話持ってなかった」

ランチバッグの中に、電話を入れたままかも知れない。慌ててポケットを探ったが、飴玉が一つ出てきただけだった。

「池内さん、すみません。えぇと、ササキさんには、またいずれご挨拶させてください」
「はい、お忙しいところすみませんでした。ありがとうございました」
「こちらこそ。失礼いたします」

 呼びに来た研究室の子に連れられて、そこを離れようとしたと時だった。どこからか、鋭い視線を感じた。

――ん?

何とも言葉にし難いような感情が、ブワッと私の中を駆け巡る。もう一度振り返ったが、誰もこちらを見てはいない。私の視線に気付いた関根さんと目が合ったくらいだ。気の所為だっただろうか。またすぐに彼を見つめる関根さんに、逞しいねぇ、と呟きを零して研究室に急いだ。今のは何なのか。心に違和感を引っ掛けたままで。

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