だって、そう決めたのは私
 二人で、小さなトラットリアに入る。僕はいつものパスタランチ。佐々木くんは迷うことなくステーキランチにした。ハキハキと注文する彼は、モテそうだなと思う。躊躇いなく肉をチョイスできる若さ。適度な筋肉。それから愛想の良い受け答え。時折物憂い顔を見せるが、まぁそれも若者だからだろう。

「ここはよくいらっしゃるんですか」
「うぅん、そうだなぁ。時々だね。今日はたまたま義理の実家に行く用事があったし、弁当を持って来なかったからね」
「弁当ですか」
「そう。でも今日は、妻が仕事休んで出掛けてて。弁当作らなかったんだ」
「あ、中川さんが作るんですか」
「あぁ、うちの妻はお料理は得意じゃなくてね。我が家は僕がお料理担当なの」

 カナちゃんの料理というものを僕は知らない。義母曰く、どうしたらあんなことになるのか。まぁくん曰く、壊滅的。レシピ通りに作っているはずが、何かが違ってしまう。ただただ手際が悪く、更には不器用。多分おにぎりも握れないんじゃないか。二人共、それぞれにそう言っていたから、多分正解に近いのだと思う。

「彼女は専ら、掃除担当でね。細かい場所とか、無心にやるのが好きみたいで。僕はそういうのは苦手だから。まぁ、得意な者が得意な物をってやつだね」
「へぇ、いいですね。そういう押しつけのない生活って憧れます。ご結婚されて結構経つんですか」
「ううん。僕らはまだ二年目。籍は入れてないけどね」
「あぁそうでした」

 以前の話を思い出したのだろう。顎を揉みながら、中野さんでしたよね? と問うてきた。カナちゃんは、彼に未だ会えていないと言っていたし。直接顔を合わせていなければ、名前などあやふやになるのだろう。

 ランチのサラダが届く。食べながらやろう、と手を伸ばし、話を続けた。今日はさっぱりしたレモンドレッシング。家でも作れるかな。そんなことを考えながら、ふと見た彼。何でだろう。とても美しいと思った。

< 146 / 224 >

この作品をシェア

pagetop