だって、そう決めたのは私
「何も無いのに……どうして?」
「……まぁ、おかしいですよね」
「いえ、きっと生きていればそういう日もあるでしょう。だから、泣きたいなら泣いたら良いと思います。気が済むまで」
「気が済む……ですか。これまで泣いてもいいのは今日だけ。一年で一度だけ。そう決めて生きてきました。でも……今日が一番、私が泣いてはいけない日でした」
またググッと深く下を向いた。幸せなはずの誕生日。寂しくて、泣いても良いのはあの子だけだ。私は……彼を捨ててしまった私には、その権利はない。
「今日、ですか」
「えぇ……大事な、大事な息子の誕生日なんです」
こんなこと言うつもりはなかった。見ず知らずのこの人に吐露するような話じゃない。ごめんなさい、と小さく謝った。聞かなかったことにしてください、と。
「会いに行ったり、お祝いをしたりしないんですか」
「そうです、ね……私はもう、会えないんです」
口元だけに冷めた笑みを乗せて、自然に答えていた。理由は分からない。今まで毎年一人で迎えていたこの日のことを、誰にもちゃんと話したことはない。暁子にだって。それでも、誰かに吐露したかったのは事実だ。過去の懺悔を聞いて欲しかった。いつも、誰かに。
「……まぁ、おかしいですよね」
「いえ、きっと生きていればそういう日もあるでしょう。だから、泣きたいなら泣いたら良いと思います。気が済むまで」
「気が済む……ですか。これまで泣いてもいいのは今日だけ。一年で一度だけ。そう決めて生きてきました。でも……今日が一番、私が泣いてはいけない日でした」
またググッと深く下を向いた。幸せなはずの誕生日。寂しくて、泣いても良いのはあの子だけだ。私は……彼を捨ててしまった私には、その権利はない。
「今日、ですか」
「えぇ……大事な、大事な息子の誕生日なんです」
こんなこと言うつもりはなかった。見ず知らずのこの人に吐露するような話じゃない。ごめんなさい、と小さく謝った。聞かなかったことにしてください、と。
「会いに行ったり、お祝いをしたりしないんですか」
「そうです、ね……私はもう、会えないんです」
口元だけに冷めた笑みを乗せて、自然に答えていた。理由は分からない。今まで毎年一人で迎えていたこの日のことを、誰にもちゃんと話したことはない。暁子にだって。それでも、誰かに吐露したかったのは事実だ。過去の懺悔を聞いて欲しかった。いつも、誰かに。