だって、そう決めたのは私
「ね。大きくなったでしょ」
「うん。だって私は、幼稚園生までのあなたしか知らない。そこから、この形に飛ぶんだから。母親なんて胸を張れないわね」
「だから? だから……また捨てる?」
今にも泣きそうな顔をして、カナタがそう言った。そんなことするわけない、と叱ったが、そう思われても仕方ないのだとも思う。彼にしてみたら、母親は自分を捨てる存在だったのだろうから。あの家で育てられたのならば、きっと。
「そんなことはしない。絶対に。カナタがママのことを許せないだろうことくらい、分かっているつもりよ。どう聞いて育ったのかは想像が付くから。でも、あなたが望んでくれるのなら……もう手を離したりしない。絶対に」
「……うん」
「でもね。急に再会したからって、全てを無理に受け入れることはないの。あなたには選ぶ権利がある。聞きたいことには何でも答えるから。でもね、多分カナタがこれまで聞いてきたこととは違うと思う。それを受け入れられるなら」
私の初婚は、彼――カナタが宿ったことによる出来ちゃった結婚。今ほど寛容でない社会。更には閉鎖的な地域。私は、あの家には望まれない嫁だった。だから、離婚の理由を悪く言われているだろうことくらい分かっている。全て《《あの女》》が悪いと言われていただろうことくらい。
「うん……聞きたいことは、沢山ある。それに、俺のことも知って欲しい。あれから、どうやって育ったのか」
「そう、ね」
私は知っていた。元夫は、離婚してすぐに再婚をしたことを。そうして、あっという間に子供が産まれたことも。彼が、その家族の中で幸せそうに笑っていたことも。心が萎んでしまって、何も考えられなくなったあの時。カナタが心から幸せだったかは分からない。ただ今は、自分を《《俺》》と呼ぶようになった息子から聞く事実だけを、知りたいと思った。
「うん。だって私は、幼稚園生までのあなたしか知らない。そこから、この形に飛ぶんだから。母親なんて胸を張れないわね」
「だから? だから……また捨てる?」
今にも泣きそうな顔をして、カナタがそう言った。そんなことするわけない、と叱ったが、そう思われても仕方ないのだとも思う。彼にしてみたら、母親は自分を捨てる存在だったのだろうから。あの家で育てられたのならば、きっと。
「そんなことはしない。絶対に。カナタがママのことを許せないだろうことくらい、分かっているつもりよ。どう聞いて育ったのかは想像が付くから。でも、あなたが望んでくれるのなら……もう手を離したりしない。絶対に」
「……うん」
「でもね。急に再会したからって、全てを無理に受け入れることはないの。あなたには選ぶ権利がある。聞きたいことには何でも答えるから。でもね、多分カナタがこれまで聞いてきたこととは違うと思う。それを受け入れられるなら」
私の初婚は、彼――カナタが宿ったことによる出来ちゃった結婚。今ほど寛容でない社会。更には閉鎖的な地域。私は、あの家には望まれない嫁だった。だから、離婚の理由を悪く言われているだろうことくらい分かっている。全て《《あの女》》が悪いと言われていただろうことくらい。
「うん……聞きたいことは、沢山ある。それに、俺のことも知って欲しい。あれから、どうやって育ったのか」
「そう、ね」
私は知っていた。元夫は、離婚してすぐに再婚をしたことを。そうして、あっという間に子供が産まれたことも。彼が、その家族の中で幸せそうに笑っていたことも。心が萎んでしまって、何も考えられなくなったあの時。カナタが心から幸せだったかは分からない。ただ今は、自分を《《俺》》と呼ぶようになった息子から聞く事実だけを、知りたいと思った。