だって、そう決めたのは私
「あぁ……実はさ。まぁ後でちゃんと話すけど。勘当されたんだよね」
「え? パパ……あの人はそれを許したの? おばあちゃんが言い出したことではなくて?」
「そう。あそこから通えるところはないから、家を出ることは許しが出てたんだけどね。ただ、学部は経営じゃなきゃいけないって。でも俺、農学部に行きたくて」
「うんうん。カナタは土とか生物とか好きだったものね」
「でも、許してもらえなくて。一度、経営学部に入ったんだ。けど、身が入らなくて勝手に辞めて、喧嘩になってさ。で、完全に離れてから、農学部受け直したんだ」
「そうだったの……」

 元夫に怒りが湧いた。カナタが幼い時から土を弄り、虫に興味を持っていたのを知っていたはずだ。牧場へ行く時、邪魔にならなそうであれば連れて行ったりしたもの。それを全て知っていたのに、義母の言いなりになったということ? 

 私が一緒にいられなくなって、彼の環境は随分変わったのだろう。それもきっと、カナタにとっては良くない方に。ズキリと胸が痛んだ。新しい家族の中で笑っていた息子は、幸せなんだと思っていた。やはり、何があってもこの手は離してはいけなかったのに。

 もう丸くない、大きくなった手に触れる。もうママより大きいのね、と誤魔化して笑ったけれど、自分が許せなかった。

「そう言えば……カナタ。どうしてここに?」
「あぁ……うん。そのことも話さないとね」

 ジャケットの胸元に手を差し込み、カナタは名刺入れを出す。少し角の丸まった、若い子が使いそうなデザインのものだった。本当に大人になったんだな、と思うと同時に差し出された名刺。どこか見覚えのあるデザインだった。


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