だって、そう決めたのは私
「今日は病院だよね」
「そうよ。基本は病院。火曜が休みで、水曜は会社ね」
「そんなに働き詰めで大丈夫なの?」
「え? あぁ……考えたことなかったな。でもさぁ、病院で触れないような話題を知るのも楽しいのよ」
「そっか。でもお願いだから、無理はしないでね」

 母は目を見開いて、何も言わずに頷いた。そう息子に心配される日が、また来るとは思っていなかったのだろう。今日はいっぱい食べるぞ、とすごく久しぶりに元気よく言った。少しでも、母が涙を零さないように。

 肉が運ばれて来ると、任せなさい、と母はやる気を出す。あぁそうだ。肉を焼くのは、母の担当だった。料理は上手くできないから、肉を焼くことを極める。確かそんな宣言をしていた気がする。曖昧だけれども、そんな温かな記憶を思い出した。

「裏返したら、頃合見て食べなさいね」
「うん」

 昔と同じだった。あぁ母はきっと変わっていない。薄っすらと希望が宿る。いつも思ってくれていたかなんて、まだ確信はない。それでも、変わらず息子として受け入れた母が愛しかった。

「あぁ美味い……」
「カナタ?」

 泣くほど美味かったわけではない。ただ、母と飯を食っていることを実感したら、ぼんやりと視界が歪んだ。白米を掻っ込み、肉にまた手を伸ばす。それからビールを流し込んで、口元を拭く振りをして眼尻の水分を拭った。向かいから、母が手を伸ばす。俺の頭に。幼い頃のように、ポンポンと優しく置かれた手。そのまま、俺の頭を撫でる。また泣いてしまいそうだった。

「もうさ……二人で泣いちゃおうか」

 そう言われて顔を上げたら、母も泣いていた。自然にわんわん泣いた二人は、傍から見れば可笑しかろう。それでも、心は満たされている。久しぶりの母との食事は、少し塩辛い味がした。
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