だって、そう決めたのは私

第39話 最悪の方法

「ねぇ、母さん……僕を捨てたわけじゃないって言ったよね」

 カナタがそう言ったのは、ある程度腹が満たされてからだった。直ぐに返事が出来ないほど、体が強張るのが分かる。だが、話す時が来た。覚悟はしてきたつもりだ。

 彼が事実を受け入れられなくとも、真実を知って欲しい。ママはカナタを捨てたわけじゃないと、信じてもらいたい。だから、出来るだけ隠し事はしない。息子に誠実でありたいと思っている。

「もちろんよ。マ、母さんは、あなたと離れるつもりはなかった。だから出来る限りのことはした。ただ……力が足りなくてね。まだ世間知らずで、何もかも後手に回ってしまったの。結果、上手に抗えず、あなたを手放さなくちゃいけなくなってしまった。抵抗はしたんだけどね」

 真実を全て口にしたところで、許されるとは思っていない。気付けば、自然と目を逸らしている。寂しい思いをさせてしまったという後ろめたさが、私の中で何よりも大きかったのだろう。

「うん。母さんは……それで、う……浮気してたの?」
「いいえ。それだけは断言します」

 食い気味に答えていた。それだけは絶対に違う、と。

「本当に? 僕とパパのことが嫌になって、浮気してたって……」
「おばあちゃんが言ってた?」

 スルッと言ってしまった言葉に、カナタが頷く。やはりそう刷り込まれていたか。覚悟はしていたが、腹立たしくて両手を強く握り込んだ。食い込む爪が痛い。
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