だって、そう決めたのは私
「小林さんは言ってたよ。母さんは悪くなかったって。カナコちゃんは一生懸命に働いて、一生懸命に母親になろうとしてたって」
「そんなことを……」

 胸が熱くなる。いつも私の勝手ばかりを押し付けて、申し訳ない気持ちでいた。それに、あの地に今も私を良く言ってくれる人がいる。あそこで生きた証拠のようだった。

 有力な地元企業の一人息子である夫。彼らを敵に回したくない人が多いこと、多いこと。私一人を無視してしまえば、丸く収まる。そう考えていた人ばかりだったから。

「小林さんは、母さんのことを悪く言わなかった。おじさんも、おばさんも。俺があそこを出るって決めて、その前に訪ねたんだ。その時、泣きながら迎えてくれた。それで、あれ……えぇと、これを出してくれた。覚えてる?」

 カナタが差し出したのはSNSの画面。アイコンには、くまのぬいぐるみ。私が密かに見ていた『カナタ』という人のページだった。あぁやっぱり、この子だったのだ。どこにでもある名前。どこにでもあったくまのぬいぐるみ。その掛け合わせに昔を重ねて見ていたこのアカウント。私の視界は、また歪んでいる。

「覚えてる。忘れるわけないじゃない。最後……にあげた誕生日プレゼントだもの」
「うん。そうだったよね。俺も大切にしてたけど、ある日突然なくなった。母さんと一緒に。探したけど見つからなくて、パパは知らないとしか言わなかった。引っ越しをして、大きくなって、そのうちに俺は忘れてたんだ」

 あんなに大事にしてたのに。俯くカナタが呟いた。
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