だって、そう決めたのは私
「色、変わっちゃったのね」
「あぁ、ポシェット?」
帽子を被った可愛らしいくまは、ポシェットを斜めに掛けている。薄いピンク色。 あの時は赤色だったよね、と懐かしい日々を思った。
「うん。日に焼けちゃってたみたいで。おばちゃん、大事に取っておいてくれたんだけどね。俺がこっそり来ても分かるようにって、窓際に置いててくれたの。だから、中の写真も色褪せててさ。母さん、神奈川の住所書いてくれてたでしょう? あれも掠れててね。何とか解読しながら、探してさ。溝の口までは辿り着けたんだ」
「そっか。今度……一緒に行こう。おじいちゃん達も喜ぶと思う」
そう言った時、私はまた泣いていた。
両親は、今も何も言わない。カナタがどうしているだろう。そう心配していても、彼らは一切口にはしなかった。リビングにこっそり置かれたカナタの写真。私の幼少期の写真に混じって置かれているそれは、行く度に角度が少し変わっている。きっと二人で、もう二度と会えない孫の話をしているのだろう。気付いていても、聞いたことはない。それが、互いを傷つけてしまうと分かっているからだ。
「宏海のアトリエには行ってるんだよね?」
「うん。行ってるよ」
「じゃあ、それのすぐ近くよ」
「え? そうなの? ウロウロ歩いてはみたんだけど、思い出せなくて」
「そりゃそうよ。何度かしか行ったことないもんね」
今すぐにでも会わせてあげたい。娘としては、そう思った。だが、ここで大事なのはカナタの気持ちだ。焦らずに、まずは母子間の関係を温めねばならない。
「あぁ、ポシェット?」
帽子を被った可愛らしいくまは、ポシェットを斜めに掛けている。薄いピンク色。 あの時は赤色だったよね、と懐かしい日々を思った。
「うん。日に焼けちゃってたみたいで。おばちゃん、大事に取っておいてくれたんだけどね。俺がこっそり来ても分かるようにって、窓際に置いててくれたの。だから、中の写真も色褪せててさ。母さん、神奈川の住所書いてくれてたでしょう? あれも掠れててね。何とか解読しながら、探してさ。溝の口までは辿り着けたんだ」
「そっか。今度……一緒に行こう。おじいちゃん達も喜ぶと思う」
そう言った時、私はまた泣いていた。
両親は、今も何も言わない。カナタがどうしているだろう。そう心配していても、彼らは一切口にはしなかった。リビングにこっそり置かれたカナタの写真。私の幼少期の写真に混じって置かれているそれは、行く度に角度が少し変わっている。きっと二人で、もう二度と会えない孫の話をしているのだろう。気付いていても、聞いたことはない。それが、互いを傷つけてしまうと分かっているからだ。
「宏海のアトリエには行ってるんだよね?」
「うん。行ってるよ」
「じゃあ、それのすぐ近くよ」
「え? そうなの? ウロウロ歩いてはみたんだけど、思い出せなくて」
「そりゃそうよ。何度かしか行ったことないもんね」
今すぐにでも会わせてあげたい。娘としては、そう思った。だが、ここで大事なのはカナタの気持ちだ。焦らずに、まずは母子間の関係を温めねばならない。