だって、そう決めたのは私
「ねぇ、母さん。浮気はしてないんだよね? でも結果、離婚をした。で、俺を置いていかざるを得なかった。それは確かに、中川さんに話しにくいよね。母さんもきっと……思い出したくないことがあったんでしょう?」
「思い出したくないこと……」

 もはや、それしかなかった。あの地で過ごした時間は、カナタと小林さん以外は思い出したくない。勉強しながら働いた時間も全て、壊されてしまったから。あの人たちに。

「か……ママは……パパのこと好きだった?」
「好きだったよ。まさか離婚することになるなんて、考えもしなかったもの」
「そっか。そうなんだ」

 カナタが少し下を向く。違う言い方をすれば良かった。今更そう思っても、遅い。今の言葉で、この子は恐らく何かを察してしまった。 

「出来る限りのことをして、何とかあの生活を守ろうとした。それでも離婚せざるを得なくなってしまって、親権を取って、二人でこっちで暮らせるようにって考えたの。やれることは全部やった。でも、母さんには力が及ばなくて……本当に申し訳なかったと思ってる」

 悔しかった。あの時のことを思い出すだけで、唇を噛む力が強くなる。

 育児の中心が夫であったことは事実だ。ただでさえ、彼の方が有利だった。それなのに……あの男はひどく姑息なことをしたのだ。自分側の有利を確実にするためだったのだろう。彼は私の浮気を偽装したのだ。本当に最悪の方法で。
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