だって、そう決めたのは私
二人は、どうやって出会ったんだろう。昔からの友人だと言っていたよな。母さんが彼に俺のことを話していないのは、二人の関係性の問題だって言ってた。関係性の問題ってなんだ。籍は入っていないが、二人は夫婦を名乗ってはいる。事実婚というやつだろうか。うぅん、考えても分からない。でも、きっと大丈夫だ。母さんは、いつかちゃんと話してくれるだろうから。
「鞄なら、カチッとしたのも面白いけど……こう柔らかいのも異素材感が強くていいかなって思うんだけど。どうかな」
見せてくれるスケッチブック。彼の描くものは、いつでも優しい。自分の手を離れた後のことが、きちんと考えられている。優しさの塊のようなデッサンなの。この人ならば、母を傷つけない。俺は、そんな気がしている。
「さっきのタグ、もう少し厚くしてもらって、ポーチとかファスナーのところに使っても面白いよね。それから、こういうインテリアにも。籠っていうか、バケツっていうか……何ていうんだろうね。へへへ」
「バスケット、が近いですかね」
「おぉ、バスケット」
中川さんは、パアッと顔を明るくした。彼は絶対に悪い人ではない。そう思うと、今日は息子としての感情が強く出すぎているなと反省する。池内さんがいないし、母さんと会ったばかりだし、仕方ないかも知れないが。
つい考えてしまうのだ。彼は母を幸せにしてくれるだろうか、と。特に今日は、そればかりを見ている気がした。中川さんが淹れてくれたコーヒーを啜る。最近ホットに代わったが、これも美味いなと思った。
「あ、僕も休憩。そうだ。甘いの大丈夫だったら、チョコレート食べる? 土曜日にね、奥さんが買って来てくれたの。珍しいんだよ」
「……変わったチョコなんですか」
「あ、そっちじゃなくて。奥さんが甘いものを買って来たのが珍しいの。あの人、あまりそういうの食べないから。ふふ、自分を甘やかすの嫌いなんだよね」
「それは……ストイックですね」
「ストイック。そう、その言葉。カナちゃんに合うなぁ」
そんなことを言いながら彼が、鞄から出した硬質な箱。それと全く同じ箱が、俺の部屋にもあった。あれは土曜の食事の時、母がくれたのだ。カナタはチョコレートが好きだったでしょう、と。そうだったのは昔のことだけど、覚えていてくれて嬉しかったんだ。ただ母なりに、俺が大人になったことは配慮したのだろうと思う。ビターな物が多く入った、綺麗なチョコレートだった。
「このままでお行儀悪いけど、摘んでね」
ヘラっと表情を柔らかくして、中川さんがチョコレートの箱を開ける。俺は何気なく蓋裏の説明書きに目をやった。あぁきっと、彼はミルクチョコレートが好きなのだ。俺にくれたものとは違って、甘めのものが多い詰め合わせのようだった。
「鞄なら、カチッとしたのも面白いけど……こう柔らかいのも異素材感が強くていいかなって思うんだけど。どうかな」
見せてくれるスケッチブック。彼の描くものは、いつでも優しい。自分の手を離れた後のことが、きちんと考えられている。優しさの塊のようなデッサンなの。この人ならば、母を傷つけない。俺は、そんな気がしている。
「さっきのタグ、もう少し厚くしてもらって、ポーチとかファスナーのところに使っても面白いよね。それから、こういうインテリアにも。籠っていうか、バケツっていうか……何ていうんだろうね。へへへ」
「バスケット、が近いですかね」
「おぉ、バスケット」
中川さんは、パアッと顔を明るくした。彼は絶対に悪い人ではない。そう思うと、今日は息子としての感情が強く出すぎているなと反省する。池内さんがいないし、母さんと会ったばかりだし、仕方ないかも知れないが。
つい考えてしまうのだ。彼は母を幸せにしてくれるだろうか、と。特に今日は、そればかりを見ている気がした。中川さんが淹れてくれたコーヒーを啜る。最近ホットに代わったが、これも美味いなと思った。
「あ、僕も休憩。そうだ。甘いの大丈夫だったら、チョコレート食べる? 土曜日にね、奥さんが買って来てくれたの。珍しいんだよ」
「……変わったチョコなんですか」
「あ、そっちじゃなくて。奥さんが甘いものを買って来たのが珍しいの。あの人、あまりそういうの食べないから。ふふ、自分を甘やかすの嫌いなんだよね」
「それは……ストイックですね」
「ストイック。そう、その言葉。カナちゃんに合うなぁ」
そんなことを言いながら彼が、鞄から出した硬質な箱。それと全く同じ箱が、俺の部屋にもあった。あれは土曜の食事の時、母がくれたのだ。カナタはチョコレートが好きだったでしょう、と。そうだったのは昔のことだけど、覚えていてくれて嬉しかったんだ。ただ母なりに、俺が大人になったことは配慮したのだろうと思う。ビターな物が多く入った、綺麗なチョコレートだった。
「このままでお行儀悪いけど、摘んでね」
ヘラっと表情を柔らかくして、中川さんがチョコレートの箱を開ける。俺は何気なく蓋裏の説明書きに目をやった。あぁきっと、彼はミルクチョコレートが好きなのだ。俺にくれたものとは違って、甘めのものが多い詰め合わせのようだった。