だって、そう決めたのは私
「こういう綺麗なチョコレートってさ……食べるまで何味だか分かんないよね。これなんだろう」
「それは、フランボワーズですね」
「そうなの? 佐々木くん、ここのチョコ好き?」
「いや、あの中川さん。これですよ。ほら、その形はフランボワーズって」
蓋裏を指さして彼に見せる。すると中川さんは、あっ、と可愛らしく赤面した。
「恥ずかしいけど、ふふ、美味しいからいいや。どれどれ……おぉ、ピスタチオも美味しそうだね」
こういう指摘をすると嫌がる人もいると思うが、彼はとても素直に恥ずかしがった。若造の指摘に苛立ちも感じられない。あぁ純粋なんだ、と微笑ましく思うと同時に、僅かに頬の内側が強張るのが分かった。彼はきっと、幸せに包まれた家族の中で生きてきたのだ。そんな妬ましい感情が密やかに蠢いた。
「奥さんは、お忙しい方なんですよね」
「そうなの。あれこれ頑張っちゃうからさぁ。食事くらいはね、サポートしてるけど。年も取ってきたし、色々心配なんだよねぇ。自分のこともちゃんと考えて欲しいんだけどさぁ」
そう言って、彼はチョコレートを口に放る。短く綺麗な放物線だった。ボォっとそれを眺め、本当に奥さんのこと好きですよね、と零した。何かを確認しようとしたわけじゃない。純粋に、彼の言葉から愛を感じたのだ。
「うぅん……それはちょっと違うかもな。好きとか、そういう恋愛感情みたいなものじゃなくって。僕は、彼女を人として大切にしたいって思ってる。だから、二人で支え合って行ければいいなって。例えば、彼女は料理が苦手なことをやたら気にするけどね。互いに得意な物を率先してやって、どちらも苦手なものは一緒にやればいい。そういう風に生きていけたらいいなって思ってるんだけどね。彼女は……どうだろうな」
そこまで吐露し苦笑する中川さんが不思議だった。仕事の関係でしかない俺に、恥ずかしがることなく、茶化して誤魔化すこともなく、本当に真っ直ぐに答える。それがむず痒くて、ムカムカした。
「それは、フランボワーズですね」
「そうなの? 佐々木くん、ここのチョコ好き?」
「いや、あの中川さん。これですよ。ほら、その形はフランボワーズって」
蓋裏を指さして彼に見せる。すると中川さんは、あっ、と可愛らしく赤面した。
「恥ずかしいけど、ふふ、美味しいからいいや。どれどれ……おぉ、ピスタチオも美味しそうだね」
こういう指摘をすると嫌がる人もいると思うが、彼はとても素直に恥ずかしがった。若造の指摘に苛立ちも感じられない。あぁ純粋なんだ、と微笑ましく思うと同時に、僅かに頬の内側が強張るのが分かった。彼はきっと、幸せに包まれた家族の中で生きてきたのだ。そんな妬ましい感情が密やかに蠢いた。
「奥さんは、お忙しい方なんですよね」
「そうなの。あれこれ頑張っちゃうからさぁ。食事くらいはね、サポートしてるけど。年も取ってきたし、色々心配なんだよねぇ。自分のこともちゃんと考えて欲しいんだけどさぁ」
そう言って、彼はチョコレートを口に放る。短く綺麗な放物線だった。ボォっとそれを眺め、本当に奥さんのこと好きですよね、と零した。何かを確認しようとしたわけじゃない。純粋に、彼の言葉から愛を感じたのだ。
「うぅん……それはちょっと違うかもな。好きとか、そういう恋愛感情みたいなものじゃなくって。僕は、彼女を人として大切にしたいって思ってる。だから、二人で支え合って行ければいいなって。例えば、彼女は料理が苦手なことをやたら気にするけどね。互いに得意な物を率先してやって、どちらも苦手なものは一緒にやればいい。そういう風に生きていけたらいいなって思ってるんだけどね。彼女は……どうだろうな」
そこまで吐露し苦笑する中川さんが不思議だった。仕事の関係でしかない俺に、恥ずかしがることなく、茶化して誤魔化すこともなく、本当に真っ直ぐに答える。それがむず痒くて、ムカムカした。