だって、そう決めたのは私

「宏海、飲み物どうする？」
「そうだなぁ。カレーだから、ビールにしようか」
「うん。あ、でもグラスで分けない？　明日も仕事だし」

　あれ？　今までそんなこと言ったことないよね？　鼻歌でも歌い出しそうなほど機嫌が良い彼女に、不穏になった胸がドクンと跳ねた。

　さっき気になった洗面所へ行くカナちゃん。あれは携帯電話を持っていたからだ。ねぇ、いつも携帯なんて持って行ってた？　鞄を置いて、手ぶらで洗面所へ行っていなかった？　確かに最近、機嫌が良いことが多い気はしている。いつも笑顔だし。僕のこともよく気に掛ける。ねぇ、それってやっぱり……？　不安になり始めた僕は、引っ掛かっていた色んな点を繋げようとする。そうすると結論は、全て『この生活の終わり』へ繋がっていってしまうのだ。もしかしたら、彼女はそれを言い出すタイミングを計っているのかも知れない。それを口にされたらきっと、僕は「分かった」と受け入れるしかない。何ならば、良かったね、と祝辞を添えて。

　僕は、どうしたらいいんだろう。いや、どうしたいんだ僕は。マグカップを買った時ほど、のんびり構えていていいのだろうか。いつかこの気持ちを伝えられたらと思っていたけれど、どれだけこの時間に猶予があるのか分からない。でも、暁子さんも応援してくれたじゃないか。きっと大丈夫だ。何とかそう思おうとしているが、焦燥感ばかりが募った。


　プシュッと開けた缶ビールを、カナちゃんがグラス二つに注ぐ。半分こね、と。やっぱり、愛しかった。

　この生活を終わりにしたくない僕は、きちんと伝えなければいけないと決心する。焦ってはいけない。構えすぎてもいけない。まずは気持ちを落ち着けて、ちゃんと好きだと伝えよう。大丈夫だ。きっと、きっと大丈夫。