だって、そう決めたのは私
「佐々木くん、ありがとう。僕じゃ気付けなかったよ。指輪、上手に作れるかなぁってドキドキしてたの」
「他ジャンルですもんね。その、プロポーズをというのであれば、きちんとした自信のあるものを渡したいでしょうし」
「そうなの、そうなの」
本当にこの人は、憎めない人だ。こうやって誰からも愛されてきたんだろうな。聞かずとも、そう納得出来るような人。羨ましいと思ってしまうくらいは、許されるだろうか。彼はメモパッドを開けて、腕時計、と書き留めた。革製カバーのポケットには、仕事関係の人の名刺が入っている。その時に必要なものを選別しながら、数枚残している感じか。ふと彼は俺の名刺を手に取り、首を傾げる。
「佐々木くんって、カタカナでカナタなんだね」
「そうですね。父がカタカナでエイタなので、きっとそこから」
「へぇ、なるほどねぇ。ご兄弟は?」
「あぁ……弟が一人。優秀の秀でシュウですけどね」
「あ、そこはカタカナじゃないんだ」
「そうなんですよねぇ。思いつかなかったんじゃないですか」
これを心から笑って話せて、安堵している。俺は自分の名前が嫌いだった。それを知ったら、母さんは絶対に泣くだろう。良かったことなど、人より自分の名を書けるようになったのが早かったくらいだ。両親が離婚してからは、名前は呪いのようだった。
エイタとカナコを合わせてカナタ。三人で幸せだった時、手を繋いで、よくそう言って笑っていた。母さんがいなくなって、たくさん泣いて。もう迎えに来ないことを悟って。捨てられたんだ、と思った。その母の名が入っている名前。幸せだった記憶を呼び戻す、呪いだったのだ。祖父母は、あまり名を呼んではくれなかった。何ならば、ユウと勝手に呼んだこともある。本当は改名したかったらしいが、それだけは父親が止めたという。カナタの五年間を消さないで欲しい。そう懇願したというのだ。俺が少しグレた時、そう父親がこっそり教えてくれた。きちんと愛し合っていたパパとママから生まれたんだ、と。当時はな、というオチは付けやがったが。ママが自分を捨てても、ちゃんと望まれて生まれたんだと知れた。大人になって、色んなことに気付く前は、それだけで良かったんだ。
俺には、ちゃんと愛されていた事実が大事だった。この名前のままで育ててくれたこと。それだけは、父親に感謝している。俺の名前は、佐々木エイタ。両親の名前を半分ずつ貰った。今は、そう胸を張って生きている。
「他ジャンルですもんね。その、プロポーズをというのであれば、きちんとした自信のあるものを渡したいでしょうし」
「そうなの、そうなの」
本当にこの人は、憎めない人だ。こうやって誰からも愛されてきたんだろうな。聞かずとも、そう納得出来るような人。羨ましいと思ってしまうくらいは、許されるだろうか。彼はメモパッドを開けて、腕時計、と書き留めた。革製カバーのポケットには、仕事関係の人の名刺が入っている。その時に必要なものを選別しながら、数枚残している感じか。ふと彼は俺の名刺を手に取り、首を傾げる。
「佐々木くんって、カタカナでカナタなんだね」
「そうですね。父がカタカナでエイタなので、きっとそこから」
「へぇ、なるほどねぇ。ご兄弟は?」
「あぁ……弟が一人。優秀の秀でシュウですけどね」
「あ、そこはカタカナじゃないんだ」
「そうなんですよねぇ。思いつかなかったんじゃないですか」
これを心から笑って話せて、安堵している。俺は自分の名前が嫌いだった。それを知ったら、母さんは絶対に泣くだろう。良かったことなど、人より自分の名を書けるようになったのが早かったくらいだ。両親が離婚してからは、名前は呪いのようだった。
エイタとカナコを合わせてカナタ。三人で幸せだった時、手を繋いで、よくそう言って笑っていた。母さんがいなくなって、たくさん泣いて。もう迎えに来ないことを悟って。捨てられたんだ、と思った。その母の名が入っている名前。幸せだった記憶を呼び戻す、呪いだったのだ。祖父母は、あまり名を呼んではくれなかった。何ならば、ユウと勝手に呼んだこともある。本当は改名したかったらしいが、それだけは父親が止めたという。カナタの五年間を消さないで欲しい。そう懇願したというのだ。俺が少しグレた時、そう父親がこっそり教えてくれた。きちんと愛し合っていたパパとママから生まれたんだ、と。当時はな、というオチは付けやがったが。ママが自分を捨てても、ちゃんと望まれて生まれたんだと知れた。大人になって、色んなことに気付く前は、それだけで良かったんだ。
俺には、ちゃんと愛されていた事実が大事だった。この名前のままで育ててくれたこと。それだけは、父親に感謝している。俺の名前は、佐々木エイタ。両親の名前を半分ずつ貰った。今は、そう胸を張って生きている。