だって、そう決めたのは私

第46話 私の息子

「今度、鎌倉に行こうと思うんです」
「鎌倉?」
「はい。箱根だとゆっくりするには、なんかこう……泊まりになってしまうと言いますか。その、県内なので日帰りでも行けはするんですけどね。でもそういった疚しい考えはないですよ、ということでの鎌倉です」
「はぁ……なるほど?」

 弁当を食いながら、五十嵐くんのお硬いお話を聞かされている。暁子の親友である私に、不埒なことは致しません、という宣言なのか。このまま放っておくと、その鎌倉の旅行プランを聞かされそうである。

「五十嵐くんが色々考えてくれてるのは、よく分かったよ。ありがとうね。暁子をとても大事にしてくれて」
「とっ、当然です」

 滑りかけたメガネをクイッとあげて、五十嵐くんはそう答えた。当然であります、とか言われなくて良かったと思っていることは黙っておこう。

 最近彼は、会えばこうして報告をくれる。それはまぁいいのだが、気になっているのは周りの目。五十嵐くんは、どれだけの人間に背を押されているのだろう。今にも、頑張れという声が聞こえてきそうなほど。こうなると流石に……こうして笑顔で受け止めてあげる以外にない。
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