だって、そう決めたのは私
「カナコ、またヨーグルト食べてるの」
「いいじゃない。美味しいんだから。それに腸活って大事よ?」
「そりゃそうだけど」

 ランチを乗せたトレーを持った百合が、呆れた顔をして隣の椅子を引く。五十嵐くんは小さく会釈して、食べる手を止めた。こういうのを見ると、百合は立派に部長なんだなと思う。そんなことしなくていいんだけど、と毎回呆れているが、五十嵐くんは止めないだろうと思う。

「そういうのはいいから」
「はい、すみません」
「私が萎縮させてるみたいでしょ。もうそんなことより、暁子さんとのことどうなの? 上手くやってる?」

 結局この話は、百合も知ることになった。私たち三人は、飲み友達でもある。だから尚更、気になるのだろう。ただ彼の恋について、私は暁子寄りでいるが、多分百合は五十嵐くん寄り。鎌倉の話をし始めれば、母のように、姉のように心配しているように見えた。頑張れよ。焦るなよ。そんな感情が聞こえてきそうだった。

「そうだ。ようやく佐々木さんと会えたんだって? この間、聞いたよ」
「あ、そうそう。ようやくね」

 そう先日、ようやくカナタと公式に(・・・)会うことが出来た。互いに笑わぬように、緊張感のある名刺交換だった。後で色々メッセージを送りあったのも、楽しかったな。二人の間は徐々に解れて、くだらない話をしたりすることもある。こういう時間も大事だ。私たちの距離を縮めて、両親に、宏海に、きちんと会わせたいから。

 そうやって真摯に向き合っているつもりだが、この間、急に宏海のことを問われた。母さんはどう思っているのか、と。あれは流石に困った。息子に、しかも長らく会えずにいた息子に、今の感情を吐露して良いものか。悩んで、悩んで、悩んで。でも結局は、素直に答えた。どんな些細なことであれ、今はあの子に嘘を吐くのが嫌だったのだ。

「佐々木さん、出来る子よ」
「あ、そうなんだ。そこまでは、お話出来なかったからなぁ。宏海も、いい案を出してくれるんだとは言ってたけど」
「そうなんだ。分かるかも。頭の整理が早いというか。可視化するのが上手いというか」
「へぇ」

 我が子が誰かに褒められるのは、こんなに照れくさいんだな。へへへ。体中がむず痒い。あの家の中で、真っ直ぐに育ったカナタ。当然、我慢をした何かはあっただろう。それでも、社会でこうして認められている。また頭を撫でたら、二十五の息子は流石に嫌がるだろうか。

「確かにそうですね。私も、そう感じます」

 百合に賛成した五十嵐くんも、彼はとてもしっかりしている、と褒めた。カナタの色んな努力が認められたようで嬉しい。ただその裏の辛さも、私は知らなければいけないけれど。
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