だって、そう決めたのは私
「何のお話ですかぁ」

 急に花が咲いたような声が掛かる。しっかりアイラインを引いた関根さんが、五十嵐くんの横に腰掛けた。クリっとしているけれど、少し小さめの目。それを彼女は気にしているのだろう。若いんだから、あまり濃くしない方がいいのにな。そう思うけれど、当然口にはしない。

「カナコがようやく佐々木さんと会えてね。良い子よねって話ししてただけよ」

 ランチを啄みながら、百合がそう説明してくれる。私は食べ終えたけれど、何となく席を立ちにくい。手持ち無沙汰に茶を啜って、適当に相槌を打った。

「確かに、佐々木さんっていい人ですよね。優しいですし。でも……カナコさん旦那さんいらっしゃるんですし、狙ったらダメですよ」
「……はぁ?」

 驚きすぎて、眉間に皺が寄ったし、えらく低い声が出た。何をどう見たら、そういう考えに至るのか。普通に分からず、ただ困惑する。

「関根さん、急に何言ってるの。冗談でも失礼よ」
「あ、ごめんなさい。そんなつもりはなかくて……気に障りましたよね。すみません」
「あぁ……いや、大丈夫です」

 謝ってはくれたけれど、まだ挑戦的な目をしているのが気になった。百合は私が怒ったのに気付いている。それに彼女も気に入らなかったのだろう。すぐさま部長の顔になった百合。私よりもヒートアップしそうで怯える。

「関根さん。彼が優しい人なのは分かるけれど、仕事とはきちんと線を引いてね。こんな事は言いたくないんだけれど、出来ないのならカメオカの担当から外します」
「えぇ……それは嫌です。困る……以後、気を付けます」
「次はないわよ。そうやって輪を乱されるのは、こっちも困るの。分かる?」
「はい。すみません」

 仕事なのだから、そう言われても仕方ないだろう。遊びではないのだ。ただ若干、言い過ぎな気もするが。彼女のことはあまり知らないし、口を挟まない方良かろう。間で、五十嵐くんがオロオロしている。きっと彼は、こういう争いは苦手だろうな。
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