だって、そう決めたのは私
「せ、関根さんの気持ちは、分かります。僕も同じように思ってしまうこともありますし」

 控え目に、五十嵐くんが口を開いた。とても穏やかな声色で。首を突っ込まないと思っていた私は、少し五十嵐くんを見直した。

「でも、百合さんの言うように、彼とのやりとりは仕事です。僕もその線引はきちんとして欲しいと思っています」
「……はい」
「でも、彼はとても魅力的な人ですよね。僕から見ても、いい男だなぁって思いますから。そういう感情を持ってしまうのも分かります。でも、まだ取引は続きます。だからそれは、心にしまっておいてくださいね」

 冷静に、五十嵐くんが彼女を諌めた。百合もそれを見て冷静になったのだろう。五十嵐くんの言葉に、大きく頷く。まぁでも佐々木くんなら仕方ないよね、と。

 私は、彼らの話を微妙な気持ちで聞いている。カナタがこうして認められているのは嬉しい。でも色恋の感情が混じっているのを聞かされるのは、どうしたらいいんだろう。事実を宣言できないのだから、仕方ないか。あぁ言ってしまえたら、いいのにな。彼は私の息子です、と。
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