だって、そう決めたのは私

第48話 たくさん話をしよう


「えぇと……こんな感じのデザインでいいかな。いや、ちょっと可愛らし過ぎるかなぁ」

 うぅん。唸っては、溜息。頭を掻いて、またデッサンを始める。佐々木くんから案を貰ってから、仕事の合間にこんな作業を繰り返しているが、なかなか思うような物が描けない。商品にする物ならば、もっと早く仕上がっていただろう。それが好きな人へ想いと共に渡す代物になると、色んな欲を出しては、不安になり消しゴムをかけてしまうことを繰り返していた。

 うぅん、とまた唸りを上げた時、チャイムが鳴る。あぁ、もうそんな時間か。僕は手早くスケッチをしまって、玄関へ急いだ。

「こんにちは。いらっしゃい」

 扉の先にいたのは、尾上《おのうえ》丈《じょう》というフリーのカメラマン。僕の友人で、今日は新しい商品の写真を撮りに来てくれたのだ。年は十くらい下。でも、とてもしっかりしていて頼りになる男だ。知り合ったのは、数年前。公園で花のスケッチをしていた時だった。人の懐に入るのが上手くて、僕はあっという間に彼が好きになった。それからというもの、新しい商品の宣材写真は全て、彼に依頼している。

「今回のは、グリーンを入れたいなって思ってて。庭とかいいですかね。周りのお宅が入らないようするんで」
「うんうん。いいよ」

 商品を手に取った彼は、サクサクと撮影の準備を始める。決めたら早いのが、彼のスタイル。僕がボォっと眺めている間に、もう撮影は始まっている。何枚か撮っては確認。それを繰り返し、互いに納得のいくものに辿り着ける。そうやって夢中になっているうちに、段々と陽が傾き始めた。秋になると、急に日が短くなったように感じる。
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