だって、そう決めたのは私
『カナコだって幸せになっていいのよ』

 数時間前の暁子が、そう笑いかけた。

 隣を歩く宏海。店先の小物を見ては、カナちゃんこういうの好き? と話しかけてくる。彼は彼なりに楽しそうで、不意に青春時代を思い出した。勉強したり、遊んだり、歌ったり、笑ったり、喧嘩をしたり。あの頃は全てに忙しかったけれど、永遠を夢見ていた。何もかも、純粋に。今ならば、そんなものはないと言い切れる。永遠の愛を誓ったって、一時だけだ。同じように相手も愛を育んでいってくれるとは限らない。でも今、ほんのちょっと思ってしまった。宏海とならば笑って暮らしていけるのかもしれない、と。

 私には、幸せになる権利などない。頑なに自分に言い聞かせてきた。周りに迷惑を掛けて、逃げ帰ってきたのだから。けれど、暁子の言うように幸せになってもいいのだろうか。彼を見つめる。宏海はそれに気付いて、何も言わずに微笑んだ。笑みを返すことも出来ない私は、ただそっと静かに視線を外した。

 こんな歪な関係でなければ、どんな感情を持っただろう。ただの友人の宏海とこうして歩いて、素直にどう思っただろう。一体何が自分の本心なのか、完全に見失ってしまった気がした。この生活を望んだのは、私だと言うのに。何故か今――この歪んだ生活を、初めて後悔している。
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