だって、そう決めたのは私
「ふざけんな……」

 苛立つが、全て読まなければいけない気がした。整えられた女の姿が視界に入る度に、頬がヒクヒクする。あぁ綺麗な爪。自分の手に視線を落として、何となく握り込んだ。

 仕事柄、綺麗なネイルなどしない。手荒れはないように心掛けてはいるが、画面に映された女のそれとはまるで違う。洋服だっていつも、仕事着に着替えやすい格好で、特別お洒落などはしていない。休みの日だって、適当なものだ。もうそういう生活が馴染んでしまって、お洒落の仕方も忘れてしまった。振り返ればそんな毎日。美しく着飾る女と比べれば、思わず溜息が溢れた。女の勝ち誇った笑みに、吐き気がする。いや……そう感じてしまうのは、すっかり負け犬ということなのだろうか。

『子供が巣立ち、夫婦二人の生活に』

 記事の中のサブタイトルがいちいち癇に障る。眉間にも力が入り、頬も唇も固くなった。隣で主役の妻を見つめる男。その横顔をぼんやりと眺めれば、「髪が薄くなったんじゃない?」と独り言ちた。

 あれから、嫌と言うほど時間は経った。私はしっかりと五十のおばさんになったもの。この女だってもう初老を過ぎただろうに。私は愛されていて、今もキラキラと輝いています……って? 隣の男の微笑みも相まって、ムカついて仕方ない。対抗するように、ハリの落ちた自分の頬を持ち上げる。あの頃は私だって、もっとふっくらしていたはずだ――
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