だって、そう決めたのは私
「よし」

 パシンと両頬を叩いて、自分に気合を入れる。今の生活が幸せだと胸を張ろう。誰に言われたわけでもない、自分が選んだ道だ。ゴクリと水を飲んで、ペットボトルを見つめる。暫くそれを眺め、キュッとキャップをしめた。

「あ、良かった」

 自販機でもう一本買った水を持って、私は来た道を戻った。心が少し晴れたら、あの絵を描いていた人が気になったのだ。彼の手元には水分らしきものがなかった気がして。誰かに優しい言葉を掛けられて、自分もそれを誰かに返したくなった。ただのお節介だな。まぁ断られたら、持ち帰ればいいし。気が付いていたのに、このまま倒れられたら寝覚めが悪い。

「あの……」
「え? あ、はい」

 意気揚々と来たつもりだったが、こんなことは滅多にしない。子供や女性にならば躊躇いなく出来るだろうが、やはり成人男性にするとなるとちょっと恥ずかしさもあった。 

「結構、長くいらっしゃいますよね? 良かったら、あの……これ。水分摂ってください」

 おばさんだから、と割り切って、水をグイッと差し出した。驚いた顔の彼と目が合って、何となく視線を外す。彼はそれを受け取る気配もなく、怪しい女だよな、とすぐ自戒した。
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