だって、そう決めたのは私
「百合ちゃんてさぁ」
「ん?」
「まぁくんとお付き合いしてた人だよね」

 ブッと吹き出しそうになって、必死に堪えた。

 忘れていたわけじゃないが、今更掘り起こす話でもない。確かにあの二人は、当時付き合っていたけれど。宏海が匡の話をすると、ちょっと心拍数が上がる。

「あぁ覚えてた?」
「うん。覚えてるよ。意外だなって思ってたし」
「そうなの?」
「だって、百合ちゃんって明るいタイプでしょ。まぁくんは根暗だから」
「それは確かに。あれは、百合が匡のことが好きだったのよね。どちらかと言うと」
「へぇ、そうなんだ」

 ひどく手汗をかいている。良かった。宏海は普通だ。私が変に気を回し過ぎただけみたい。小さく安堵する。

「そう言えば、匡はどうしてる? 最近会ってないんだよね」
「そうなんだ。相変わらずだよ。結婚もしてないし」
「あぁ……だよね。匡は仕方ないか。女運ないからねぇ」
「そうなの?」
「うん。知らない?」
「聞いたことない。だって、まぁくんはいっつもそういう話はしてくれないから。彼女できた? とか聞いてもさ。うるせぇって言うだけ。それがそのまま五十になった」

 未だに子どものように拗ねる宏海。匡との関係性は、ずっとあの頃のままなのだろう。それがちょっと心地良かった。
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