だって、そう決めたのは私
「私たちも年を取るはずよね」
「ほんと。五十なんて遠い遠い未来だと思ってたのに」

 やれやれだ。今一緒に仕事をしていても、ちょっとしたことで昔話になってしまう。学生時代、仲の良かった百合。でも、彼女が結婚してしまってからは疎遠になっていた。夫の実家に移住した百合と実習やレポートで忙しかった私。手紙は書いたし、メールも送っていたけれど。少しずつ会えなくなって、連絡も徐々に減っていったんだ。

「まぁ、何があったか知らないけれど、宏海と喧嘩したなら早く謝るんだよ」
「だから、してないし。それで、なんで私が謝る方なのよ」
「だって、宏海よ? まカナコが吹っ掛けたって言うなら分かるけど。だって、あの子、怒ったことないでしょ。私、見たことないよ」
「うぅん……確かに」

 彼女の言う通り、宏海は怒らない。どういう思考回路になっているのだろうと不思議に思ってしまうくらい、彼はいつも穏やかに微笑んでいる。多分、腹の中では苛立ったりするのだろうし、それを表に出さないだけなのだろうとは思うが。すぐにカッとなってしまう私にしてみたら、神様のような性格である。抱え込んだりしてないかと問うてみても、彼は笑って首を横に振るだけ。

「こっちは更年期も重なってイライラしてるけどね。百合の想像通り、宏海は穏やかに過ごしてるわよ」
「毎日、愛夫弁当作ってね。晩ご飯も作って待ってる、と。完璧な主夫ね」
「本当。まぁでも、掃除と洗濯は私がするし。ちゃんと分担はしてるのよ?」
「あぁ確かにそういうのは、カナコの方が得意かもね」

 我が家は得意なものは得意な方がやる、ということで分担されている。話し合って決めたわけでもないが、何となく自然とそうなった。得手不得手が全く被らなかったのが大きいだろう。特に料理が壊滅的に苦手な私としては、とても有難く感じている。
苛立ったことなんかは話してはくれるけれど、その熱量が私とは比べ物にならない。
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