だって、そう決めたのは私
「部長、カナコさん。お疲れ様です」

 料理が出来るっていいわね、なんてしみじみと話していた私たちに、可愛らしい声がかかった。まだ若い営業部の女の子――関根(せきね)凜花(りんか)だった。日替わりランチのプレートを持った彼女は、私の隣の席に座る。こんな清純な時代、私にいつあっただろう。毎回そう思わせてくれる子である。

「わぁ、カナコさんのお弁当、今日も凄いですねぇ」
「そう、ね」
「こら、関根さん。そうやって他人の弁当覗かないの」
「あ、すみません。つい……でも部長も見ちゃいません? カナコさんの旦那さんって凄いなぁって」
「まぁ……そうよね」
「ですよね」

 一応指摘はしたものの、つい数分前に百合も確かに私の弁当を覗いていた。その手前、あまり強くは言えないのが面白い。百合も私と同様、大して料理が出来ない。だから、宏海は凄いわねぇ、と毎回言ってくるのだ。だもの、やっぱり彼女を強くは言えない。

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