だって、そう決めたのは私
「そうだ、カナコ」
「ん」
「新しいトリーツのラインナップってどうなった?」
「あぁ。ウサギちゃんのがそろそろって感じ。サンプルは出来てるよ」
「ほんと? 午後、ちょっと借りてもいいかな」
「いいけど」

 トリーツ、というのは、ペットのご褒美のこと。よく出来たね、と褒めつつ与えるもの。それを目指して作っているおやつが、この会社で言うトリーツである。ドッグフードの売上も定着したことから、少し前に始めた物だ。犬猫用をまず先に作り、次にウサギ用を作っている。それもそろそろ販売間近。パッケージやそういった他部署の仕事がまだ残るが、研究開発部の手はもう離れている。

「あ、部長。午後ってあれですか」
「そうなのよ。だから、一応並べてみようかなって」

 営業部の二人は、あれ(・・)で通じている。何のことか分からぬ私は、僅かに首を傾げて、まぁいっかと卵焼きに手を伸ばした。今日は少し甘めのようだ。

「少し前にね。ペットフードを扱わせて欲しいって話が来て。今詰めてるのよ」
「あ、そうなんだ」
「うん。互いの会社の方向性も似てるし、悪くない話なの。午後からまたいらっしゃるからフードとトリーツと提示してみようかなって」
「へぇ。パッケージはまだだけどいいかな」
「うん。いい、いい。食べ終えたら取りに行くわ」

 自分たちが作ったものが、こうして色んな人の手に渡る。それは獣医では味わえなかったことだ。この年になっても、ちょっとだけワクワクする。

「部長、部長。あの人……来ますかね」
「ん? あぁ。来るんじゃない? でも余計なことは駄目よ。仕事だからね」
「分かってますよ。何かこう、目の保養的な感じですってば」
「目の保養……?」
「あぁカナコ、あのね。関根さんが言っているのは、あちらの営業の人の話なの。まだ若いのにしっかりしててね。で、見目も良いから、若い女の子たちがやる気を出しているというわけよ」
「へぇ……」

 自分にはなかったな。仕事相手がそういう人だと、やる気が出るのか。飼い主がいくらカッコ良かったとしても、ときめいたこともない。モテそうだな、と思う程度である。でも今思えば、そうやって出会って、結婚したりするんだよな。すっかり忘れてしまっていた。
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