だって、そう決めたのは私
「あ、そうだ。宏海、カメオカって知ってるよね?」
「うん。知ってる。というか、お世話になってるよ。どうしたの?」
「仕事で名前聞いたんだけど、宏海からも聞いたなって思い出して。どんな会社なのかなぁって」

 昼間、サンプルを取りに来た渉から、相手先の会社の話を聞いた。百合も企業理念なんかは似てると言っていたけれど、渉も良い印象だそうだ。販路拡大が望めるのであれば、犬猫以外のトリーツ開発の速度も早めたいなと思った。宏海がその会社を知っているならば、客層など情報を聞けないだろうか。そう珍しく仕事の欲が芽生えたのである。

「カナちゃん、よく覚えてたね。僕の仕事のこと」
「何それ。忘れないよ」
「そう? まぁいいけど。カメオカね。伝統工芸とまでは言わないけれど、僕のような小さな工房を大事にしてくれててね。そういう職人たちの。作品を売ってくれて。それから時々だけど、ワークショップなんかも開いてね。僕も子供に教えに行ったりするんだよ」
「へぇ……知らなかった」

 そうやって宏海は、カメオカのことを教えてくれた。日本製や安全性にこだわり、徐々に徐々に大きくなった会社とのこと。大凡の購買層、系統、売れやすい価格帯。僕のジャンルとはまた違うだろうけど、と熱心に話してくれた。その中から垣間見える宏海の仕事は、私が知ろうとしなかったことばかりだった。この生活を持ち掛けたくせに、随分と怠慢だよな。宏海についてもっと知る努力をしなきゃいけなかった。
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