だって、そう決めたのは私
「コーヒー入れるから座って」

 ソファーを勧めて、冷蔵庫からコーヒーのディキャンタを出す。こう暑い時期は、いつも作っておくものだ。豆は、匡の家のアイスコーヒー用のブレンド。気に入って毎年買っているのに、僕は何故かあの店でコーヒーを飲んだことがない。

 自分の分も入れ直し、グラスを三つトレーに乗せた。時折、カラカラ氷が鳴る。その透明な音もまた、涼しさを醸す一つだ。

「どうぞ。勝手にコーヒーにしちゃったけど、良かったかな」

 佐々木に向けて言った。彼のことを、まだ僕は掴み切れていない。いい子だし、長い関係になればいいなと思うけれど、最近の子はちょっと分からなくて、おっかなびっくり接している部分がまだあった。

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「中川さん家のこれ、美味しいんだよ。俺、いつもごくごく飲んじゃって」
「ふふ、良かった。幼馴染の家の喫茶店のブレンドでね。気に入ってるんだ」

 池内はもう、ゴクッと喉を鳴らしながら美味そうに飲んでいた。いつものことだけれど、そう褒めてもらうと嬉しくなる。少しだけ表情を緩めて、僕も手を伸ばす。ホットとは違う苦味。ブラックのまま、キリリと冷えた味を楽しむのが好きだ。
< 52 / 69 >

この作品をシェア

pagetop